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小説『お姉ちゃんの肌をぬって』

最終更新日:2008年11月9日


 1





一月十七日午前四時、いつもの時間だ。

また、おりた。

                   名前 野尻毛野




心、心臓から舞い出る花びらたちの言葉。

紡ぎ、紡ぎして、してして。

柔らかな肌、舞い下りた花びら。かけら。

人肌を温める言葉。柔らかな。ごく柔らかな。

微笑み。子どものように。赤ちゃんみたいに。笑み。漏れる。

観音。みろく。あの彫像みたいに。彫られて。

だからほら、ここにいて。いつもここに。

やめてもう。やめてよ。そう、いつもここに。

にこにこ。ここに。

いたわしい。君がいたわしい。

ためしに硯を置いてみようか。わかるだろう?きっとね。

そう何度もこねないで言葉を。すっと出して。そう、前みたく。

 

「雪が降るんだってね」お姉ちゃんが言う。

お姉ちゃん。

ここから、お姉ちゃん。

 

「そうだよ」

言おうとしたのに、たくは言葉にできなかった。

だから、やめたね。

そうみたい。きっとそうみたい、と思うの。

 

 

光が湖に沈む場面。見ている二人。いや三人。面影。伸びる。

 

「またあの人だ。ほら、あの人」たくが言う。

お姉ちゃんには届かない。滞り。

「これこれ、これくらいの言葉の量。やっとみつけたの」

お姉ちゃんが言う。

「嬉しいな」

「ありがたいの?」

「うん、ありがたいの」

 

峠を越えて、また越えて、たくは走る。お姉ちゃんを探して。

さらりさらり流れて。体がばらばらにちぎれて。

それでも、さらりさらり流れて。

 

「コンバーションです」お姉ちゃんが言う。人と人が出会うことなんだって。ショック。

「コンバーションなんです」昔、たくんちの隣のお姉ちゃんが教えてくれた。

「コンバーションだってよ」たくは走る。自分のお姉ちゃんを探して。

 

 

 

 

二月十四日

 瞑想

考え出すと気持ち良さが消える。

暖かい、体が。

すこやか、疲れがない。

つながっている、宇宙と。

痛みがない、安らぎ。

心地よい。形容詞がいっぱい。

名詞が必要ない時間。

キーワードは調和。

ハーモニー。

ハーモナイズ。

これ大事。

不協和音は人間が産み出したもの。

没頭するしかない、そこに。

ありありと全部が見える。感じられる。

一人称と三人称の境界の消失。

子ども時代の感覚。

 

 

 

 

 

 三月三日

たくにはわかっていた。だって、この道だよね。

道は三つ。どっから入ってもいい。

お姉ちゃん?

たく?消して。

私、消える。

お姉ちゃん?

そうみたい。

何が起こったの?わかってるのかな、みんな?

わからない?じゃあ続けて。

ずっとだよ。わかるまでさ。わからなくなったら一緒に消えようよ、ね。

 

 

 

僕の部屋に届いた。人形が届いた。大きな水槽ごと届いた、女の人形が。

「裸の女?きれい?」

問答無用。帰って来て。

 

お兄ちゃんなの?

あなたは「お姉ちゃん」じゃないの?

「わかんないよ。いつかね、

 二人が会える日があったら。またね」

「柔らかに、体が浮くの、君、わかるかな?

 しゅわっぷ!てね。体が浮いてくの。気持ちいいよ、きっと」

ねえ、もう一度説明してみて。どんな感じなの?

俺、どうすればいいの?

「簡単だよ。捨てるの。全部。いらないものも、いるのも。何が必要だっていうの?しゅわわってなるよ、全部捨てちゃったらさ」

 

きっと、こんなふう。二人が会ってる時っていつも、こんなだった?お姉ちゃん?お兄ちゃん?どっち?

 

「あはは。軽いよね、体って」

君はぼくの妹?弟なの?それともお姉ちゃん?

「別にさあ、関係ないじゃんそんなの。ね、たく」

ふうん。

「座らない?ここ、どうぞ」

たくの妹?みたいな女の子が言ってる。

カフェテリア?

じゃあ座る。

「食べちゃうよ」

沈黙。

「君を」

ああ、ならそうすれば!

その女の子は卵を食べている。おいしい?

だめ。食べちゃいけない。ぼくは卵アレルギーかもしれないから。食べたら顔が腫れるかもって言われた。「誰に?」僕に。

 

彼女の口が動いている。ゆらゆら。卵が溶けてるんだ、口の中でさ、きっと。たくの口の中には唾がいっぱい。何をそんなに出してんのさ?たく。

「おいしいよ。君も何か頼んだら?」

「うん」

ゆらゆら。カフェテリアの映像が揺れて。ウェイトレスさんどこ?ウェイターだった?マスター?

たくは記憶の迷路に迷いこんだんだ、多分。

「あの子は僕の妹?お姉ちゃん?わかんない」

たく、寝る。走りたいけど。ちょっとね。

 

窓を開けると海があった。海にはタコとイカがいた。

二匹とも真っ白なお肌だった。

「うまそう?」

「うん、おいしそう」

 

「あのさ、誰かの心にじーんとくるようなことの一つも言えないわけ?」

その人の人生変えるような?マジックワード?救済者?いい加減にしてよ。

「そういうたちじゃないんだ、たくは」

来た。見た?うまそう?たくの頼んだ卵。でっかいゆで卵。

鳥が一匹死んだからさ。余計な死?何が余計?誰がそう決めた?

おいしいじゃんか、ゆで卵、別に。

かぷり かぷり。

とろける。

こういうふうに遊ぶのはもうやめにしようね。楽しすぎるからね。かたく考えないでさ。もっと気楽に行こうよ。ね。

「え、まだなの?」

「君が考えてるより、ずっとだよ。ずうっと」

 

 

お姉ちゃん!

ああ。

そう。

 

呼んでるよ。おたくの弟さんがよ。

(だから、私は彼の妹だって言ってるでしょ)

 

 

さわさわって、触ると感じるもの、なあんだ?

わからんけ?だめね。

答えは「よ」でした!

くすくす。

むにゃむにゃ。

「無駄な言葉なんてないんだよ一つも。ごみなんて勝手に君たちで決めただけでしょ。ほら、まだこいつら生きてんのに。ね?」

くすくす。

ごそごそ言葉が動いてる。何もなれないって決めつけられた言葉たちがね。それでもごそごそ動いてる。みんなの頭の中で、ほら。ね。

 

「ところでさ」卵をほうばるたく。

「ん?」お姉ちゃんか?

「おまえ、誰?」

「決まってんじゃん、もちろん」

 

 

悠々と時間が進むって誰かが言ってたっけ。楽しいんだってさ、人生って。そんなもんだったかな?ほんとに。

 

ここに当てはめればいいわけか。

「そうだよ、この穴だよ」

じっくり。ゆっくり。穴に入れる。

掘れ掘れ。休んでなんかいられるか。まだ子どもなんだから。








 2 〈地の文に 時々 お姉ちゃん 出現 注意せよ〉

 私は生まれた時から白かった。真っ白だ。誰も近寄れなかった。黒いものには全てが染まる。何にもなれなかったのだ、私は。

命?死?希望?光?全てを吸収してしまおう、この真っ白な体に。

桜散る。覚悟する。これからどうする?決める。一歩ずつ。確実に。

戦争の後で。人が死ぬということ。腐った土。

「土って腐っているものじゃなくて?」腐敗?もとから?

軍隊の列が行進中。ザックザアック。

とぼとぼと、列の後ろで、うなだれ歩くお姉ちゃん。

 

お姉ちゃんだって!?

お姉ちゃん、そんなところにいたの?

こっちだよこっち。こっちに帰ってきて!

お姉ちゃんは歩いていく。

とぼとぼ。

とぼとぼ。

軍隊は進む。

見えない世界。音しか聞こえてこない。

 

 

たく、目を醒ます。カーテンを開け、窓を開け、光を浴びる。息を吸う。息を吐く。今日が始まる。今日もまたお姉ちゃんを探しに行こう。

 

 

ここだよ。

たく。

私はいつでもここにいるよ。「あ、お姉ちゃん。お姉ちゃんだよね?」そうだよたく。前からずっと一緒にいたよ。

「お姉ちゃんが掴めないよ」

 

たく。

           書きなさい。

「はい」

 

 

カフェテリア。

るんるん。て、またあいつか。どっから来たんだっけ?あの子。

るんるん。

元気してた?それおいしそう。私もそれ食べるね。

「おまえ、俺のお姉ちゃんの知り合い?」

だっからさ、前も言ったじゃん、お姉ちゃんは私だって。

黒色。虹色。

たく、あれ、見える?「うん」

あれは虹って言うんだよ「うん」

まぶしい。体がとろける。七回祈る。とうとうと。

さあ。ここから「さいしゅっぱつ」だよ。きらきら星の下。

夕焼け一つまた消えた。それからまた出たお星様。

「暗いな君は」黄身は明るいよ。

「白いな君は」白身は透明だよ。

卵アレルギーに憂鬱。単なる心配症。

コレステロール?たんぱく質?プロテイン?ひよこ?

一体誰だ?卵って。

なぞなぞ。

 

「ね、たく、かくれんぼしよ」

「しよしよ」

「もういいかい」

「まあだだよ」

たく、お姉ちゃんから逃げる。

 

僕はずっと隠れるんだ。だからね、お姉ちゃん、

見つけられないの、いっつも。ずっとね。

 

    十七年前  日本

お姉ちゃん、ずるい。

「お母さん、たく、私のとった」

「たく、だめだよ、お姉ちゃんに返して!」

(お母さん、帰してよ、僕のお姉ちゃんを)

 

「もういいかい」

 

「まあだだよ」たく、お腹がすいたな。

 

カフェテリア。卵の渦。

「だからさ、さっきから言ってんじゃん、私がそうだってさ」

もぐもぐ食べてるこいつ、誰?

お姉ちゃんの友達?僕の従姉妹?僕の妹?

「はい、はい、今度はダルマサンガコロンダしよ」

はじめのいーっぽ!

ダ ル マ サ ン ガ  コ ロ ン ダ!

 

 

 

いつも、いつも、いつも、たくだったね。そうだったね。私じゃなかったね。どうしてだろうね。私にはわからなかったね。たくも当たり前だと思ってたよね。私怒ってたの気づかなかったの?たく。

 

黒いよね、いつも黒かったよね、たくの肌、眼、鼻の穴。乳首。体毛。皮。爪。穴。

 

お姉ちゃんが揉んであげようか。

「うん」

優しく手を這わせて。お姉ちゃんの手の温もり。

ほら。ね。気持ちいい?

「うん」

 

ねえ、たく、何でこんなことしてんの?教えてよ。何してんの?

そんな?そんなだよ、たく。

まわるの、この扉が。

入ればいいさ、花が出てくるから。

時々思うの、ここじゃなかったみたいだって。

いつもそうだったって。

「どっち?」たくが目に涙をためて、お姉ちゃんに尋ねる。

命?

光を消して。暗くして、真っ暗に。

 

お父さんはね、海の向こうに行っちゃった。私は何回も舐められたんだよ。知らなかったでしょ?

「誰に?」

大きな男に。

 

「黒い?白い?それとも灰色?」

肌色。

「肌色って何?黄色のこと?」

勉強しな。

 

 

靴を履いた。靴がとれた。靴をまた履いた。靴がまたとれた。

お姉ちゃんのおさがりだから。

たくね、たくさんおもちゃ持ってんだよ、知らなかった?知ってた?どっち?最初から?後から?一緒に遊んだ?どこで?

「隣の部屋」

隣の部屋って、どっちだっけ?

 

丸い色。深く丸い色。そんな色にくるまれて。

肝臓をいたわって。腸をもっと揉んで。

あったかくして。

あなたはいつも冷たかったから。

窓を開ける。色が入る。おおきな色だね。

「うん、これ、お姉ちゃんにあげる、はい」私いらない。

 

「ここはね、たくくんがいつも歩いてた道だよ」あしながおじさん。

たくを連れて歩く場面。

「ほんとにそうなの?」たくの大きくまんまるな目。

「どれ、たくくんにお金あげようか」

もっともっともっと。

 

たくくんはまるいんだね。おおきいんだね。ほめられてたね。黒かったね。

「やめて、やめてお姉ちゃん、もうやめて」

自律しろ、ガキが

お姉ちゃん、少し後悔。

 

 

 

明るかった世界は。透明だった夕焼けは。怖かった学校が。

 

たく、行こ。もう行こ。ここじゃないよ。あっちだよ。気持ちいいよ。「だめだよ、お姉ちゃん、こっちだよ」あっちだよほら。「ダメ!こっちだよ。お父さん!お姉ちゃん、あっち行っちゃったよ!」「たく、こっち来い」大きな男が言ったみたい。

ここ、ここ、ほらここ。たくがいなくていいみたい。私だけだよ。ずっとここに住もう。部屋を作ろう。たくには入らせない。

『醍醐味』って言葉、たく、知ってる?無理だよたくには、学校の勉強。お姉ちゃんすごいんだって。いつもすごいねってみんなから言われるよ。こっち来ちゃだめだからね、たくは。

歩いていこう私の部屋まで。うちからは遠く離れてるけど。もう私は大人だから。

 

 

「暗いね」言われた?

         はねかえせよそんな言葉。おまえだろうが。

 

泣いてみて。優しく。

 

持っていてこれ、私のためにさ、大事にとっておいて。きっとだよ。ずっとはなさないでね。忘れないでね私のこと。

 

 

 

 

その日お姉ちゃんは穴に入って消えた。思いだした。忘れた。

歩くよお姉ちゃん。歩くよ。走らないよ僕は。

 

「開いたね、また。どら、ドアを開けて止まれよ、子どもたち。

集団行動は禁止だぞ。ここは立ち入り禁止だぞ」

 

友達には言わないで。私が消えたことは。しまっておいて胸に。祈っておいで境界で。日曜日に。

「うちはお父さん毎日働いているから無理だよ、お兄さん」

「じゃあ日曜日の夜眠る前に、お姉ちゃんの部屋の前で集合な。わかった、ボク?」若い羊飼いがちっちゃなたくに言う。

「だめだよ、お姉ちゃん、行っちゃダメって言ってたもん、僕行かないもん」

「アーメン」

 

 

 

「暗い部屋だね」いつもそう言われる。照明のせい?私のせい?

黙って!もう黙って!いい加減にしろ。

殺すよ。

そんなこと考えちゃうからだめなの?答えてよ。

 

            ギュ

素直にして。

今抱いてくれたよね。はじめからね、そうして欲しかったの。

 

こっちに入ってきちゃだめだよ。前に言われたよ。

「誰に?」

壊すよ、たく。そんなこと言うと。

 

 

(歌が聞こえてくる。隣の部屋から?お姉ちゃんが歌ってる?ピアノを弾きながら?レンダン?誰と一緒?あの妹?)

 

 

たくは走る。時々歩く。お姉ちゃんを探して。

とりとめのない遊びはやめて、真剣に考えてみなよ、この場所がどこだったかって。どこだったんだ?教えてみろよ。答えな、腐った卵たち。

 

さめて。さめたくない?吹くよ。もっと吹くよ。笑わないでね。笑ってね。どっちでもいいよ。本当だよ。苦しくない?私は苦しい。でも吹くね。キミが大好きだから。

トレイをあげてごらん。

そっち!だからそっちだってば!あごをひいて。もっとひいて。

ピアノを弾いてごらん、そっちにいないで。楽しいよ。

お母さーん!たくにもピアノ教えてあげて。

キッチンからお母さん登場。

それからどうした?

 

 

 

 3

取り上げられた言葉、また見つけた。大事にしてた言葉、また失った。寒かった、街は。祈った、境界で。

奇跡は起きなかった。当たり前だ。俺は無「心」論者だもの。

どうどうと流れる、胃液が。腐るか、肛門から出るか。また祈りに行くか。どうもしないか。ならいいさ。勝手にしやがれ。大人はいつもわかってくれていた、僕の肝臓の痛みを。

録音していただろうか?さっき綴った呪文を。恋の呪文?祟ろうかお前たちに。やめておこう。お前たちに教えておこう。

たたみかけるように。

こすれ、子どもたちよ。

もっとこするのだ、言葉を。

殺せない。親なんて。

「たらふく飯を食べた後に言った言葉がそれかい?お兄さん。笑っちゃうね。聞いてられない」

 

はう!何これ?こんなお話?

お姉ちゃんはどこ?たくのお姉ちゃんはどこにいるの?

ここからは見えないよ、何も。

「帰ってきて、たく。うちに」

やだ。帰ってきて、お姉ちゃん。

 

赤い火の玉。海。色。黒い色。夜。お姉ちゃんの体。浮く。海の上。揺れる。裸のお姉ちゃん。抱きたい?戻ってきて、お姉ちゃん。

そこはたくが見てもいい場所じゃない。

そこは大人しか入っちゃだめな場所だよ。

お姉ちゃんは祈っていたの?境界で?こっちに戻ってきて。

裸だからだめなの?

黒い色の蜂蜜を一つとって。それをお姉ちゃんの上にかけて。

だめだよお姉ちゃん。僕はまだ子どもだもの。

「あなたはもう私の弟じゃないんだよ」

蜜。密。みつ。

白い牧場で。三回までだ。三回しか許されない。後は見ちゃだめだ。

言葉で、どこまでたどりつけるというの?この現実に。

裁縫箱。針。たく、取り出す。黒ずんだ針の穴に黄金の糸を通す。

優しく刺す。静かに。丁寧に。美しく。精密作業。

「はうっ」お姉ちゃんの淡い呼吸音が聞こえる。

血。黒い血。初めて見た血。

「触ってみて、たく」

だめなものはだめ。

「後悔した?何故?わかちあっただけだよ」

余計なものを見てしまったね。

ここから早く帰りたい?まだいたいの?たくは。逆さまになったね、音が。

もういいよ、お姉ちゃん。僕は帰る。

「どこに?」うちに。

そろそろ歩くのをやめよう。叶わない夢を見ていたのか。色がないんだもの。

たく、卵を掴む。噛む。噛みしめる。柔らかな歯ごたえ。

抑揚のある言葉を心がけてくれよ。ここは人が来てはいけない世界だ。おまえたちしか入れない場所だ。息の入っていない言葉を話してはならない。

 

寒かった。看護婦さん。病人。被害者。生存者。凍える。

時々雪が溶ける。燃える、体が。ここでも何回も。

何度でもキミの欲望に答えるよ、この病院は。

 

光の渦。巻いて巻かれて。時々殺されていた。兄弟たち。命?吹きこまれて吹き消されて。時を止めて。この時間の進み方は間違っている。どこまで進む気なの君たちは?ここはうちではないよもう。大人になったわけか?二人揃って。

絶対多空。他の多。一多。

言った言葉を元に戻せ。はききって。さばさばとした感触にしてよ。

黒い血。運命の余韻。染みが祈る。命のラクダが三匹。砂漠で会った二人。時々広がる海。これ以上は言えない。

楽しみたいな異常な空。

桜がきれて。きれぎれになって。木も砕けて。

お姉ちゃんも壊れた。たくも壊れた。家が壊れた。あそこが割れた。

 

「復活」してみる?

「コンバーションなんです」お姉ちゃんが言う。

歩いてきたね。寒い?熱い?きっと。砂漠。

蜂。エネルギー。みちみちた世界。

時計の針を戻して。そこの裁縫箱をとって。刺される。体が軽くなるから。糸で縛って、私の体を。もっと大事にして。お願い。

お姉ちゃんが淋しげに笑った。たくは自分の体とお姉ちゃんの体を糸できつく結ぶ。二人とも血が滲む。お姉ちゃんが笑う。勇気づけてあげてみんな!二人を。

痛みなんてないみたい。願っていたみたいだから。こんなこと?

溢れる蜜蜂。お姉ちゃんの体は軽くなった。二人して空にとんでく。蜜蜂も一緒。寒くないね雲の上って。お星さまがキラキラしてる。

するすると抜け出る二人。糸が下界に垂れる。希望の糸。

 

いくらしたの?ここまでの旅。旅費なんてない。宿もない。見つけられたの?あの場所を。「あの場所を見つけたとたんに、あの場所は、あの場所でなくなってしまうんだよ」

 

だめだよ。ここだよ。この穴に落として。そう。ためるから。ためるからね。大きくなるよそのうち。

 

いろんなものを今まで見てきたけど、こんなの初めてだよお姉ちゃん。あったかいね。さらさらだ。体が溶ける。燃える。黒い灰になる。あったかい。寒い。

 

もう一度笑って、たく。

もう一度笑って、お姉ちゃん。

 

さくさく。進むよ。これ以上進めないけれど。どきどきするように感じるけど、これはどきどきじゃないんだ。あれをとって。

黄色。夜の色。

止めて。優しくブレーキを踏んでね。もう動けない。

もう書けないよ、お姉ちゃん。

もういいよ。だって、ここは。ここは。

たくとお姉ちゃんの縛りはとれた。

素っ裸の大地に白い血が流れている。

二人は地面の上に横たわって。お昼寝。

二人の顔を見てあげて。どんな顔をしているの?


(おわり)


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