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大宮信光『世界を変えた科学の大理論100』

最終更新日:2008年2月11日
(以下の書評は2007年10月1日にブログにて発表済です)



物理学、化学、生物学、地学の基礎理論100が発見者のエピソードつきで簡単に紹介されている。ほとんどが近代西洋の人間だ。アリストテレスを経てアラビアで発達した科学は錬金術のごとく詩的でロマンチックなものだった。西洋人はアラビアから輸入した科学知識を普遍的でどこでも妥当する数式に変えていった。科学を駆使して機械が作られ、産業革命と近代戦争が起きる。現代物理学の知識は原子爆弾、テレビ、コンピューター、ナノ・テクノロジーを生み出した。現代テクノロジー社会のインフラは科学理論なしでは成しえなかった。これら科学の基礎は高校で物理と化学と生物と地学を習ったものにとっては常識だろうが、それらのうち1つか2つしか習っていない文系知識人にとってはなじみのないものも多い。それでも私たち全員は携帯電話からブログまで科学技術の恩恵を受けており、国の安全も科学によって守られ、かつ脅かされている。

科学者はとても頭がよい。これだけの知性と好奇心があれば、一体どれくらいの人が幸福になるだろうと思う。多くの人は科学者の作り出した文明技術の恩恵を受けているが、自分でテレビを作ることも携帯電話を作ることもできない。みなが科学者になればいいのか。そうした知識の理想郷を多くの人が思い描いてきただろうが、実際人類は快楽と抗争にふけり続けており、平和が訪れる未来はまだまだ遠そうだ。何故みな科学者のようになれないのかという妄想は、実のところ破綻している。科学者こそが、戦争と殺戮を作り出してきたことも、現代史の事実である。まだまだ制御できる理性を持ちえていないのに、これだけの文明を駆使してしまっていいのだろうかという煩悶が頭によぎる。科学者の発明の社会倫理的是非を判定し、科学技術を悪用しないこと。こうした社会知の形成が必要になる。同時に、多くの人に科学的知識を身につけてもらうこと。子どもたちに科学に対する興味関心をもってもらえるように、科学の面白さを伝えること。これもまた科学を営む学者の役割である。

これだけ専門化、複雑化したからこそ、基礎の基礎から面白さと危険性を伝えること。科学技術なしに現代生活は営めないのだから、科学から逃げることはできない。

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