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アクゼル『無限に魅入られた天才数学者たち』

最終更新日:2008年2月21日

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「無限」に魅入られた天才数学者たち
アミール・D. アクゼル Amir D. Aczel 青木 薫
早川書房 2002-02

異端の数ゼロ―数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念 不思議な数eの物語 暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで 不思議な数πの伝記 素数に憑かれた人たち ~リーマン予想への挑戦~

by G-Tools , 2008/02/21




村上龍に触発されてか自然科学に関する書籍をここ最近集中的に読んできたけれど、数式が並ぶと嫌な気分になってくる文系で、かつ自然科学の知識の最先端を知りたい人にとっては、早川書房のポピュラー・サイエンスシリーズがおすすめである。言葉の説明だけで科学の知識を説明してくれるし、自然科学者の伝記的事実も豊富で、これぞ一般教養という風格がある。

本書は無限、集合論についての解説書。古代ギリシアのゼノンのパラドックスから始まって、カントールの集合論、ゲーテルの不完全性定理まで、無限と格闘してきた数学について、知的好奇心を刺激するように書かれている。

数直線を考えてみよう。0と1の間にある数がすでにして無限だ。0.999999999…は無限に続く。0.999998…と0.999999…の間にも、これまた無限の数がある。0,1,2,3と続く整数も、999999999…と無限にあり、いくつまであるか計測することができない。もちろん、-99999999…も無限に続く。無限にある整数の間、小数点の世界にも無限の数があるのだから、実数の数直線はどこの点をとっても、無限の数があるのだ。1.0000…と割り切れる整数に出会う方が、むしろ奇跡的確率なのである。

カントールは無限をアレフという記号で表した。無限であるアレフに1を足してもアレフになる。アレフ+1=アレフなんて、数学の基本からずれた考えだ。当然のごとく、無限に関する数学は、真っ当な数学者たちから批判を浴びる。それでも、無限は20世紀現代数学のメインとなった。

ゲーデルの不完全性定理、ハイゼンベルクの不確定性原理、フロイトの無意識、ピカソのキュビズム、シェーンベルクの無調音楽、ジョイスのフィネガンズ・ウェイク、デリダの脱構築、20世紀の学問は、決定不可能性がキーワードである。古典学問のような絶対普遍の客観的知識が徹底的に疑われ、(というか極限まで突き詰められ)、世界の決定不可能性、複雑性があらわになった。人類のよって立つ場は不安定になったけれど、学問はどんどん高等複雑難解になって、物理学ではワープする宇宙や10次元を研究しているし、いろいろと面白いことが起き続けている。

(このレビューは2007年11月13日にブログに発表した文章を転記しています)
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