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国連ミレニアムエコシステム評価『生態系サービスと人類の未来』

最終更新日:2008年2月22日


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生態系サービスと人類の将来―国連ミレニアムエコシステム評価
Millennium Ecosystem 横浜国立大学21世紀COE翻訳委員会
オーム社 2007-03

生態環境リスクマネジメントの基礎―生態系をなぜ、どうやって守るのか 自然再生のための生物多様性モニタリング HEP入門―“ハビタット評価手続き”マニュアル 生物多様性保全と環境政策―先進国の政策と事例に学ぶ 自然保護―その生態学と社会学

by G-Tools , 2008/02/22



国連主催、世界2000人以上の科学者の協力によってまとめられた、生態系に関するレポートです。国連というと偽善的で、現代的社会組織というよりは、ある種宗教的人道の使命感に燃えた理想的組織、かつ現実政治の場では役に立たない題目組織というイメージがあったのですが、実績面を見ていくと、平和維持活動、災害復興活動、国際親善活動などで他の組織では比べられないほどの多くの成果を出しています。現代組織的でないと感じるのは、私たちの社会の側に問題があるのではないか、私たちの社会は不正と汚職にまみれているけれど、本来人類は国連的な理想と協調の絆を持つはずだったのではないかと想われてきました。

多くの科学者が地球と人類の未来のために研究活動に邁進しているのに、自分は教育の結果得た知識と与えられた人生の機会を無駄に使っていると反省の念がわき起こってきました。国際連合のあり方、活動に対して敗北感を抱きながら、この本を読み始めたのですが、読んでいくにつけて、自分の妄想が正されていきました。

文章はいたって地味で魅力に欠けていました。科学研究のレポートということもあってつまらない内容の繰り返し。私は国連に過度の期待と自分の理想を重ねていたのでした。国連は地味でした。おそらく2000人の科学者たちも、熱狂的使命感を持って平和のために活動しているというわけでなく、私たちとそんなに変わらない生活を送りながら地道に積み重ねた研究の成果を、気取らずに少し開示しただけでしょう。

私はこれからも今の地点を大事にしつつ成長していけばよいのだし、国連の活動に対してひけめを感じる必要はないということがわかりました。自分の理想を外部の存在に投影して、今の理想的でない自分を卑下するという心のパターンを変える必要があることがわかりました。



本文では生態系を滅ぼさないための、生態系を大事にしつつ人類が繁栄していくために考えられた4つのシナリオが紹介されています。経済学による豊かさの評価には、生産性や富の大小が利用されてきましたが、自然環境の豊かさは経済評価に組みこまれてきませんでした。

自然環境の豊かさを指標に加えれば、国家に対する評価は大きく変わります。自然を破壊して生産活動を続ける国は大きなマイナス評価を与えられます。げんにヨーロッパや多くの地域では、こうした評価基準の採用が始まっています。

ペナルティも伴う環境評価を採用しては、わが国の経済は国際競争で負ける、こうした規制は不要だという意見がかつて利益を得ていた企業から出てくるでしょうが、多くの国々が環境評価基準を採用すれば、逆に自然破壊を進める国・企業は、国際社会から大きな非難を浴びることになります。課されたペナルティに加えて、社会的ステータスの低さという理由から、そうした企業と取引関係を結ぼうとする相手も少なくなっていくでしょう。短期の利益を優先するのか、7代後の孫の世代まで続く長期的利益を優先するのかが重要になってきます。

(このレビューは2008年1月28日にブログに発表した文章を転記しています)
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