エーデルマン『脳は空より広いか』
最終更新日:2008年2月21日
ノーベル賞も受賞している脳科学研究の第一人者による一般向け最新理論解説書。ここ最近ポピュラーサイエンスの本を集中的に読んできてわかったことだけれど、サイエンス・ライターなり、テーマとなる分野を専門的に研究していない科学者作家が書いた本は、読むのにそんな骨が折れないし、読み物としてもよくできていて面白いが、研究分野の最先端を牽引している超一流の学者が一般向けに書き下ろした本は、読むのに時間がかかるし、読み物としてもそれほど面白くない。しかし、ここ10年ほどで脳科学も遺伝子研究も宇宙物理学もIT技術の加速的進化とともにとてつもなく発展してきたので、知の泉の恩恵を受けないわけにはいかないだろう。
この本で取り上げられるのは、人間の体の中で、脳の中で、意識はどこにあるのかという問題である。意識は脳内のどこか決まった部分で発生しているのだろうか。そもそも自己意識とは何なのだろうかという哲学的問題。
著者はダイナミック・コア理論を説く。極めて多数のニューロンが電子をかけめぐらせ、火花を飛び散らせることで、体の中に意識の構造体が出来上がる。この激しく揺れ動く電気スパークの集合体が、私たちの意識なのである。なぜダイナミック・コアと命名されたかといえば、意識の中心は、機械の一つの部品のように脳の中で固定されているわけではなく、ニューロンの組み合わせによって形をダイナミックに可変しているためである。
著者はコンピューターと脳は違うという。コンピューターはCPUという中央演算処理装置を持ち、一つ一つの部品から成り立っている。演算処理の途中にノイズが入ると、コンピューターなり機械は誤動作を起こす。しかし、ニューロンネットワークの活動にはノイズこそ必要というか、ノイズこそ生命の証なのだ。
生物学者もよく機械と生命体は仕組みが違う、生命は中心がなく、流動的な可変体であるというけれど、私は機械生命同一論の立場をとりたい。確かにコンピューターなり機械は、部品が欠けるとおかしくなるけれど、だいたいほとんどの人が使っているパソコンは、もうどこかぶっ壊れているだろう。どこか動作がおかしくても、多くのパソコン初心者はストレスを感じつつもパソコンを動かし続ける。同様に、30歳を過ぎれば多くの人類は体の中に障害なり持病を抱えこむ。それでもなんとか生きていける。完璧に動作している機械は購入時の最初の頃だけ。使えば使うほど経年劣化してくる。それがまた味になる。人類も同じだ。
(このレビューは2007年12月12日にブログに発表した文章を転記しています)
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