パーカー『眼の誕生』
最終更新日:2008年2月22日
カンブリア紀、生命の大爆発と言われるほど、多様な生命が地球に広がった。なぜカンブリア紀に生命が多様に進化したのか。著者は進化の要因として「光スイッチ説」を唱える。地球上に光が増えたため、多くの動物に眼ができるようになった。動物たちは眼を自分の意志で獲得したわけではない。遺伝子の突然変異で眼を持つ動物がたまたま生まれた。眼がない動物よりも眼を持つ動物の方が、たくさんの食料を摂取して、繁殖することができた。カンブリア紀以前は地表を照らす光の量が少なかったため、それほど差は生まれなかったが、光量が上がったため、眼があるかないかは生存競争にとって重要なファクターとなった。眼がない動物は食べられる。眼がある動物は生き残って数を増やす。こうした捕食関係が繰り返された結果、光がなかった頃の地球上では考えられないような進化の大拡散レースが生じたという。
面白かったのは、何も見えない時と、見えた時で、どれほど世界の様子が違うかを示したイメージ図だった。眼がない時、当然世界は一つの模様でしかない。聴覚なり触覚を頼りに食物を探すことになる。動物に初めて眼ができて、世界の様子が映し出された光景がものすごかった。画面一杯に男性器や女性器のようなグロテスクというか生々しい形をしたカンブリア紀の動物が群がっている。一瞬何も見えなかった方がきれいでよかったと思ったが、ぐろぐろでにょにょろした生物たちを見ていると、性欲というか食欲というか根源的欲望が体の中からわきあがってくるのを感じた。最初に世界を見た突然変異体もきっとこうした興奮を体験したに違いない。おそらく現生人類の生殖器は、カンブリア紀の生物たちの形態を残しているのだろう。
文章は一般向けでわかりやすく、面白い。一般向け科学書籍の模範のような文章だ。
(このレビューは2008年2月20日にブログに発表した文章を転記しています)
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