モリス『カンブリア紀の怪物たち』
最終更新日:2008年2月22日
- カンブリア紀の怪物たち―進化はなぜ大爆発したか シリーズ「生命の歴史」〈1〉 (講談社現代新書)
- サイモン・コンウェイ モリス Simon Conway Morris 松井 孝典
- 講談社 1997-03
by G-Tools , 2008/02/22
古生物研究の第一人者が、講談社現代新書のために書き下ろしたカンブリア紀の生物についての解説書です。「生命の大爆発」とも呼ばれるカンブリア紀の化石からは、現代の生物とは異質の多様な生命の形跡が発見されています。カンブリア紀の生物解説と言えば、グールドが書いた「ワンダフルライフ」がベストセラーになっています。この本の多くではグールドが展開した学説に対しての反論、反証が多く書かれています。
1、進化は偶然か?
グールドは「ワンダフルライフ」の中で、進化は偶然の結果であり、タイムマシーンで時代を遡ってみたら、今ある姿と同じように生物は進化しないだろう、全く別の生物が繁栄するだろうと主張しています。著者は、環境要因によって進化の方向はある程度規定される、時代を遡ったら、進化は今と同じ方向に進むだろうと主張します。進化の収斂と呼ばれる現象です。例えば、目を作る遺伝子は多くの動物で共通であり、同じ働きをします。全く別々の系統から発生した生物が、同じような生活環境にあったら、類似した形状の牙を発達させたという現象も報告されています。人類が絶滅したら、どのような生物が地球上で繁栄するのかという思考実験があります。繁栄する生物の姿形は、今ある生物たちとは別になるでしょうが、目を持っている、捕食する、眠る、排泄するなどの機能は、今ある生物と同じように進化するだろうと著者は指摘します。
2、カンブリア紀の生物は今ある生物とは全く異なるものか?
カンブリア紀の生物は、グールドが言うように、カンブリア紀だけに存在していた進化の袋小路、生命多様性の極大点だったのでしょうか。現在生存する生物たちはカンブリア紀の生物とは何の接続関係もない、偶然の産物なのでしょうか。著者は、カンブリア紀の生物はその一つ前の世代の生物と類縁関係が見られるため、前の世代から進化してできた種であると推論します。また、現在ある生物のうちにも、カンブリア紀の怪物たちと共通する特徴が見受けられるし、カンブリア紀の生命多様性がずば抜けて高かったわけではないとも指摘します。
著者は生態系の変化に適応しようとすることで、生物は進化してきた(遺伝子が変化してきた)と主張しています。化石しか残っていないカンブリア紀の生物にはまだまだ謎が多いのですが、彼らが何故絶滅したのか、また、我々人類とどのようにつながっているのか、研究し、反省することは、進化というものを知識として理解している我々人類の使命であると考えられます。人類は遺伝子を操作する段階にまで文化技術を発達させてきたのだから、進化の仕組みを熟考すること、倫理的義務であり責任なのです。
(このレビューは2008年1月22日にブログに発表した文章を転記しています)
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