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ステルレルニー『ドーキンスVSグールド』

最終更新日:2008年2月22日
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ドーキンス VS グールド (ちくま学芸文庫)
キム・ステルレルニー 狩野 秀之
筑摩書房 2004-10-07

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く 神と科学は共存できるか? カンブリア紀の怪物たち―進化はなぜ大爆発したか シリーズ「生命の歴史」〈1〉 (講談社現代新書) フルハウス 生命の全容―四割打者の絶滅と進化の逆説 (ハヤカワ文庫NF) 利己的な遺伝子 <増補新装版>

by G-Tools , 2008/02/22



ドーキンス、グールドとも進化論を擁護する人気生物学者です。この本ではドーキンスとグールドの学説の相違点が比較されています。対立点を整理してみましょう。

1、進化の基本単位
主著「利己的な遺伝子」のドーキンスは、進化の基本単位を遺伝子とみます。「ワンダフルライフ」のグールドは、進化の基本単位を種とみます。

2、進化の必然性
動物の行動を観察するドーキンスは、進化は生存競争の結果生じる必然であると考えます。対して古代生物の化石を研究しているグールドは、進化や絶滅は競争の結果でもなんでもなく、偶然起こるものだと主張します。

3、科学の正当性
ドーキンスは、科学は宗教や他の文化と違い、人間に正しい認識を与えるものだと啓蒙主義的に考えます。グールドは、社会や文化の影響によって、科学は時に過ちを起こすと考えます。ユダヤ人のグールドにとって、人種差別、ユダヤ人虐殺の正当性を曲解されたダーウィニズムが与えたことは、許しがたいことでした。

これらの争点について、学説的に決着はついていません。二人の違いよりも明白な共通点は、ダーウィンの進化論的世界観を支持していることです。二人ともキリスト教保守主義の人格神が生命を作り上げた、進化論は嘘だという反科学的主張には協調して反論しています。

二人の学説は年を重ねるにつれて歩み寄っているとのことです。短い時間のスパンで見れば、生存競争によって勝者敗者が決まり、勝者の遺伝子形質が子孫に伝わっていきます。数十、数百万年という長いスパンで見れば、生命の隆盛・絶滅は、種単位で起きており、遺伝子の決定というよりは、環境変化により偶然起きるものと解釈され得ます。

生物学、自然科学の研究者の間では、ドーキンスの学説の方が有効と考えられていますし、ドーキンス流の遺伝子研究によって、多くの新しい事実がわかってきました。一方、文化、社会、人文科学の知識人の間では、科学の正当性を疑い、進化は偶然とするグールドの学説の方が、人気があるようです。遺伝子の競争によって生命活動が決まっていくといういささか無味乾燥な説は、文化人に受けが悪いようです。しかし、進化には何らかの決定要因があるし、偶然起こるものではないというのが、古生物の研究者からも反論として上がっています。

グールドは遺伝子の優劣によって人間に対する社会的差別が起こることを危惧しています。何が優れていて、何が劣っているかは、当時の環境が決めるものであり、決して固定的ではないことを人間はよく理解する必要があります。環境・生態系が変われば、環境適応度の尺度もまた激変するのです。優劣の線引きは、そう簡単に決められるものではありません。

(このレビューは2008年1月21日にブログに発表した文章を転記しています)
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