傳田光洋『第三の脳』
最終更新日:2008年2月21日
『「脳」という言葉を情報処理システムを内蔵する臓器と考えるなら、「脳」は全身に分布しています』(p103)という言葉がこの本のテーマを象徴している。
現代脳科学は開拓目覚しい分野だけれど、意識はどこにあるのか、人格はどこに作られるのかといった大問題は、いまだ解明されていない。脳科学、意識の学はいまだに矛盾点や難問をたくさん抱えている。
著者は、脳に意識の中心がない例をたくさんあげる。例えば、脳を摘出されても、肌をつつかれると、カエルはつかれた部分を正確に探し出して手でひっかくことができる。目の見えない人は、他のいろいろな器官を使って障害物競走を走ることができるが、ハチマキをしただけで途端に障害物競走ができなくなったという。彼らは「見えなくなった」と表現したという。
人間および生命体の思考活動は、脳の中にだけあるのではない。脳科学の理論は著者のような問題提起にいまだ的確に反論できないし、まだまだ生命の不思議についてわかっていないことはたくさんある。それでも日本では脳学者がテレビに出たり、一般向けの本をたくさん出したりして、ベストセラーやレギュラー番組まで持っているし、脳トレーニングがブームになったりもしている。
要するに、人間は大脳新皮質では理解できないことがたくさんあっても、皮膚感覚を使って生きていけるということになるだろうか。こうした社会の動きも研究に値する。
(このレビューは2007年12月17日にブログに発表した文章を転記しています)
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