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ウィルソン『生命の未来』

最終更新日:2008年9月23日


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生命の未来
Edward O. Wilson 山下 篤子
角川書店 2003-12

知の挑戦―科学的知性と文化的知性の統合 人間の本性について (ちくま学芸文庫) ナチュラリスト (上) ナチュラリスト〈下〉 社会生物学

by G-Tools , 2008/09/23

社会生物学者ウィルソンによる、環境破壊による生命多様性の喪失を警鐘する書。

動植物の絶滅を批判する主張に対して、多くの種が絶滅していくスピードは過去に比べて特別早くもないし、多くもないと反論する人がいる。

ウィルソンは、現在のペースで森林伐採などが進むと、2030年には少なくとも五分の一の動植物種が、そして21世紀待つには半数が、既に絶滅しているか、まもなく絶滅という状態になっているだろうと述べる。それほど現在の環境破壊はおそろしいペースで進んでいるのだ。

生物が滅びることに何の意味があるのか。感傷的になっているだけでないかという意見もある。ウィルソンは、ともに暮らす生物種が多いほど、それらが構成する生態系は安定し生産的であるとデータを元に反論する。

どれか一つでも生物が絶滅すれば、捕食その他の方法で絶滅種を利用していた生物の数も減っていく。例えばミツバチの数が減れば、ミツバチを利用して受粉していた植物も繁殖できず減っていく。絶滅種の数が一定数に達すると、同時多発絶滅現象が発生する。サブプライムローンのように、一旦加速した絶滅にはてこの原理が働くから、甚大な損害が発生するだろう。

ウィルソンは、生物に対する知識が深まれば、自然とその生物に対する愛情が生まれるはずだという素朴な心情を述べている。確かに私たちは自然動植物の名詞をよく知らない。特に花や木を見ても、その植物の名前が一体何なのか、正確に言い当てるのが難しくなっている。自然を利用して人間の利益を伸ばそうとする思考法は、たとえエコロジーで運動あっても、別種の悲劇を生むだろう。

エコロジーを装う経済活動は、自然を友とし、愛する気持ちを失わせていく。自然に対する愛情よりも、お金に対する愛情を膨らませてはならない。お金は豊かさと交換するものだ。豊かさとは、多様な生命が共生することだ。

(このレビューは2008年2月26日にブログに発表した文章を転記しています)
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