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『テーマ30 生命倫理』

最終更新日:2008年9月23日

(以下の書評は2008年2月25日にブログにて発表済です)

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テーマ30生命倫理
生命倫理教育研究協議会
教育出版 2000

医の現在 (岩波新書) 改訂新版 脳死とは何か 医学・医療概説―医学部進学のための特別講座 (河合塾SERIES) 看護のための生命倫理 生命倫理学を学ぶ人のために

by G-Tools , 2008/09/23


遺伝子、代理母、脳死と臓器移植、健康と病気、セクシュアリティ、環境倫理など、生命倫理を代表的テーマ30項目にわけて解説している入門書。研究者と一般の人の垣根をつなぐ、わかりやすい読み物となっている。

遺伝子の章では、遺伝の平等性と多様性が説かれる。遺伝病が発生するかどうかは、原因遺伝子の数の差でしかないという。人類は、全員が遺伝子に欠陥を抱えた不完全な存在なのだ。人間は誰もが平等であるし、同時に各自のゲノム(遺伝子情報の総体)は他の誰とも異なるユニークなものだ。

人間は平等かつ多様である。こうした認識があれば、遺伝子操作によって超人を作ろうという考えもなくなるだろう。ゲノムは多様すぎるため、理想的、模範的、正常なゲノムというものは、定義できないのだから。


生命倫理の認識を深めると、社会で女性がいかに差別されてきたかがわかってくる。パートナー以外の女性に子どもを産んでもらおうという代理母の制度は、科学技術的には可能だし、依頼主と代理母双方合意の上なら問題なさそうである。ただし、依頼する夫婦の側は裕福で、代理母となってお金をもらう女性の方は、社会的、経済的に地位が低い場合が多いという。こうした科学の枠におさまらない社会的問題の解決こそ、生命倫理学に求められるものだ。


医者と患者〜インフォームド・コンセントの章では、医者のパターナリズムの問題が取り上げられている。パターナリズムは、日本語で温情主義、家族主義、父権主義などと訳される。専門的知識を持っている医者が、専門的知識のない患者に、処方を与える。治療方針の決定権は、専門家である医者だけが持っている。医者は意志決定能力のない患者のかわりに、面倒見のよい父親のように、意志決定をしてあげる。

こうした権威主義的医者と服従する患者の関係は世界中で見られたものだが、第二次大戦後、アメリカを中心に患者の権利を尊重し、患者の自由意志、自己決定権を尊重する考え方が生まれてきた。

インフォームド・コンセントとは、患者が医者からの治療内容説明に同意して初めて、医療行為が開始される考え方である。世話、看護であるキュアは女性の看護婦に任せて、男性の医者はキュア、治療行為のみを伝統的に行ってきた。患者の人格をいたわり、痛みに共感するケアの行為が、今後はキュアの担い手だった医者にも必要とされる時代である。
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