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クロスビー『数量化革命』

最終更新日:2008年2月22日
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数量化革命
アルフレッド・W・クロスビー 小沢 千重子
紀伊国屋書店 2003-10-29

知識の社会史―知と情報はいかにして商品化したか 飛び道具の人類史―火を投げるサルが宇宙を飛ぶまで 一七世紀科学革命 (ヨーロッパ史入門) 空間・時間・物質 (上) (ちくま学芸文庫―Math & Science (ワ12-1)) 空間・時間・物質 下

by G-Tools , 2008/02/22



ルネサンス以降の近代ヨーロッパで、何故数量化技術が急速に発達したのかの謎を解く歴史書。著者はヨーロッパが帝国主義を拡張し、世界征服の覇者として君臨していく原因として、数量化技術の発達が重要であったと考えている。

ルネサンス以降のヨーロッパ人は、あらゆる物事を数字で計量するようになったという。お金、人口、兵隊の数、武器の数、温度、自然現象、天文学、快不快の心理感情、好き嫌いの評価など、あらゆるものが、数字で計量されるようになった。レストランやホテルの評価をたった5つの星でくだすことによって、社会に何がもたらされたのか。比較検討が容易になった。重要度を数だけで比べられるようになった。数量化した後の数字で比べれば、認識は深まるのか、浅くなるのか。浅くなるかもしれないけれど、世界を単純化できるから、技術の応用力が広がる。他の社会では、1000以上の数をとても大きいとか、空にある星の数ほどたくさんだとか言っていたのに、ヨーロッパ人は大量の数を計量しだし、星の数まで全て正確に計量しようとした。科学技術と軍事技術と社会機構が圧倒的に進歩し、他の社会を圧倒していった。

数量化革命のきっかけとして、新プラトン主義の神秘的数字解釈が背後にあるという指摘が面白かった。十字軍遠征後、ヨーロッパはアラビアに広がっていたギリシアの知識を手に入れた。当初はアリストテレスが重宝された。アリストテレスは数学や抽象化をあまり重要ししておらず、具体的な現実を把握することを称揚している。アリストテレスの定性的世界解釈に対して、プラトン主義は定量的に世界を解釈する。プラトンにとって私たちが目にしている現実世界はイデアの偽物でしかない。プラトンは数や図形こそ、真実の世界を表現している神秘的なイデアだと想い、聖なる数と正多面体を崇拝した。ルネサンスヨーロッパの知識人の間では、教会が神学に取り入れたアリストテレスに対して、新プラトン主義が流行していく。ラファエロなどルネサンス期の偉大な画家のほとんどは新プラトン主義者である。正確な遠近法で描写される静謐な世界は、キリスト教の宗教画の外面を持っているが、内部では新プラトン主義的数と図形の美なる世界認識が表現されている。新プラトン主義者は、美しい絵画や整った音楽を聴くことで、そこに秘められたプラトン的イデアの美を感じ取るのだ。

特定の数字や図形を崇拝する新プラトン主義は、全ての数を均等に扱う現代数学にすぐ変わる要素を持つ。最終的には知識人から程遠い商人たちの世界で広まった、簿記の発明がヨーロッパの勝利をもたらしたと著者は指摘している。

(このレビューは2008年1月12日にブログに発表した文章を転記しています)

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