現代文化、社会について領域横断的に思索するホームページ

ニィリエ『ノーマライゼーションの原理』

最終更新日:2008年2月22日

photo
ノーマライゼーションの原理―普遍化と社会変革を求めて
ベンクト・ニィリエ
現代書館 2004-05

「ノーマリゼーションの父」N・E・バンク‐ミケルセン―その生涯と思想 (福祉BOOKS) ノーマライゼーションと日本の「脱施設」 (シリーズ・障害者の自立と地域生活支援) ICF(国際生活機能分類)の理解と活用―人が「生きること」「生きることの困難(障害)」をどうとらえるか (KSブックレット) ノーマライゼーションが生まれた国・デンマーク (MINERVA21世紀福祉ライブラリー) 希望のもてる「脱施設化」とは―利用者・家族の実態・意向調査から (シリーズ・障害者の自立と地域生活支援)

by G-Tools , 2008/02/22



ここ最近自然科学、とりわけ進化論、社会生物学の本をたくさん読んできた。問題として浮かび上がってきたのは、人間のこれからの道筋である。人間は文化と技術を生み出してきた。文化の進化は近年加速している。文化はどちらの方向に進んでいくのか。文化の悪影響によって気候変動が進んでいる今、人類の意志決定について検討するのは重要な問題だ。

世界で一番幸せと評価される国、デンマークについて調べる過程で、ノーマライゼーションと言う考え方と出会った。ノーマライゼーションの原理は、デンマークで生まれた。ミッケルセンはノーマライゼーションの原理を「知的障害者ができる限りノーマルに近い生活を獲得できるための法則を与えるもの」(p22)と定義している。

この本はニィリエというスウェーデンの知的障害を持つ人々のための協会でオンブスマン兼事務局長をしていた人が書いた本である。帯には「障害を持つ人をノーマルに近づけるのではなく、その人がいる地域社会、文化のノーマルな生活環境・状況をその人に適した形で得られるよう権利を行使すること」と書かれている。

障害を持っている人をアブノーマルとして社会から排除するのでなく、ノーマルの人として、分け隔てない生活を送ってもらうこと。特別な施設を用意するのでなく、普通の家庭で生活を送ってもらう。仕事、学校教育、余暇、家族と過ごすこと、そうした当たり前のことを障害を持っている人にも経験してもらえるよう社会を設計していくこと。バリアフリーの普及も、ノーマライゼーションの原理をもとにしている。

さて、進化論にずっと触れていた私は、ノーマライゼーション及び社会福祉の理念は、生物学的事実と調和するものかどうかが気になった。重要なことが気づいた。生物学的事実はたいして重要ではない。人間は生物学的事実に関わり無く、自分たちの自由意志で社会のルールを決めていくとができる。技術と知識を利用して、人間は自分たちが望む理想的社会を築いていくことができる。

ナチスの優生学は、進化論のあやまった解釈に基づいて、劣等人種を決め、劣等人種と定義した人々を虐殺していった。これは誤りだったということが、後にすぐわかったが、生物学の知識を利用して、優れた遺伝子だけ残していこうと言う考えは、すぐ同じ歴史の誤りに陥るだろう。

ノーマライゼーションの考えは、優生学思想と大きく異なるものである。優生学は劣っていると文化的社会的に考えられる人々を矯正しようとする。ノーマライゼーションは障害を持っている人たちと共生しようとする。文化や社会制度を整えていけば、人類みんなが豊かに、ともに生きる社会ができるという信念がある。

ノーマライゼーションの立場では、障害を持っている人が社会的ハンディキャップを負っているのは、彼らの障害のせいでなく、環境、つまり社会制度の不備や隣人たちの差別的な対応によると考えている。これはもっともなことだ。人間には限界がない。同時に、限界を定めているのは、人間自身なのだ。今日もNHKでリハビリの特集番組が放送される。リハビリ次第で、回復困難と今まで考えられていた病気が回復することがある。限界はない。知識と技術を駆使すれば、私たちはよりよい社会、生活を作ることができる。

社会生物学、遺伝子の研究に携わっている人には、福祉、ノーマライゼーションの考えに触れて欲しいと思った。

(このレビューは2008年2月11日にブログに発表した文章を転記しています)

COPYRIGHT (C) 2003 HAL HILL. All RIGHTS RESERVED