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野村武夫『ノーマライゼーションが生まれた国・デンマーク』

最終更新日:2008年2月22日



世界一幸福といろいろな調査で評価されている国、デンマークの社会制度を福祉を中心に、教育、エネルギー資源、価値観、職業、家族形態など様々な観点から報告してくれる良書。社会福祉、社会全体の幸福を重要視する国々では、個人の自由よりも社会規範が優先されるから、自由度は他の国々より下がってしまうのではないかとなんとなく危惧していたけれど、実情は違った。デンマークでは、我々の社会よりも、はるかに個人の自由意志、自己決定が尊重される。社会福祉国家は、資本主義と社会主義のあいの子ではなく、自由民主主義の理想を貫いた国だと言えることがわかった。自由、平等、博愛、相互扶助の精神が万人に行き渡ることを望めば、北欧的な社会福祉国家になっていく。

例えば、学校教育では生徒の自主性が尊重される。教師はあまり生徒をコントロールしないし、点数をつけて競争させたりすることもしない。生徒一人一人が自己責任で学習を進めていく。自由に伴う責任。そう、自由にはいつでもどの道を選ぼうか選択して、決定する責任がともなう。

障害者の権利、尊厳を社会全体で高めようと努力している。障害者の社会参加をうながし、学校、暮らし、余暇、仕事など健常者とかわらない生活を送れるように配慮する。

社会の構成員全員が社会の意志決定に参加する権利があるし、義務がある。こうした自由民主主義の前提がデンマークでは活用されている。故に人々の社会に対する満足度、幸福度は高い。意志決定に参加できているという自覚がある。社会が進む方向は、自分たちの自由意志で決定されているのだという感覚が芽生えた時、人は社会に対して責任を持つ。

自由に伴う責任。自由とはやりたい放題の無法状態をいうのでない。自分の意志で、人生を選択していく権利が自由だ。社会も、構成員全員の自由意志に基づいて運営されていく。

(このレビューは2008年2月11日にブログに発表した文章を転記しています)

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