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文化、民族、進化論、生命多様性、自由意志による選択

最終更新日:2008年2月3日
(ブログ記事掲載日:2087年1月14日)
NHKBS世界のドキュメンタリー、新年度は「奇跡の映像 よみがえる 100年前の世界」という特集番組が放送されていた。

NHKのホームページから第1回放送分の紹介文を引用しよう。

「独仏国境のアルザスでユダヤ人家庭に生まれたカーン。証券デイーラーとなり大富豪に。ドレフュス事件で反ユダヤ感情が渦巻くと、社会の表舞台から退き、各国を旅するようになる。

カーンは各地から失われていく少数民族の文化、生活を記録し、20世紀初頭のあるがままの世界の姿を記録するべく、当時、画期的とされたカラー写真(オートクロム)の技術で第一線のカメラマンに世界各地を回らせ、結果的に今から100年前の世界5大陸の映像が後生に残ることになった。一部ムービーでも記録が残されており、映像には、各地から消え去った100年前の人々の暮らしや風習、世界地図が塗り変わる前の各国の姿が残されている。」

20世紀初頭の世界中の民族、文化のカラー写真は新鮮だったし、カラーで撮影された日常の映像も衝撃的だった。こんな貴重なものが残されていたのかと驚いた。

昨日放送された最終回では、カーンの最後がまとめられていた。カーンは今ある文化が次第に衰退していくこと、人間生活は移り変わっていくものであることに気づいていた。故にあるがままの世界をできるかぎり記録しようとした。カーンのこうした活動を見ると、日常風俗を描く小説や日記の貴重さ、大切さが想起される。全ての言葉、記録には絶対的に意味がある。この信念は、あらゆる文化、民族、風習には価値があり、尊重されるべきだという思想につながる。

フランスはドイツに占領された。占領軍はカーンの邸宅にあるユダヤ人関係の資料も没収したが、カーンが残した写真と映像記録には興味を示さなかったという。なぜか。それはカーンの思想とナチスの思想が全く違うものだったからだ。ナチスは優生学の思想をとっていた。すなわち、ドイツ民族こそ世界で一番優秀であり、他民族の文化は劣っているというものだ。こうした思想の元では、世界中の風習に興味など湧いてこないだろう。対してカーンは、どれが優れているかなどなく、全ての風習、社会、文化には等しく価値があり、記録されるべきだと考えていた。

これはヒューマニズムの優れた形だが、21世紀の人類は人間文化だけでなく、背名全体の活動に価値をおくべきだろう。すなわち、地球上のあらゆる生命活動には価値があるのだ。どれが優れているというわけでもなく、どれもいつか衰退していく運命にあるのだから、等しく保存し、尊重し、記録する使命がある。なぜそれが使命かといえば、人類には文化を記録し、保存し、再生する技術があるからだ。

こうした思想はダーウィン的進化思想と相反するものだろうか。違う、ナチス流の優生学こそダーウィン思想の誤解によるものだ。生命活動には時間がともなう。生命の歴史を積極的にみれば、進化という言葉で表現されるし、否定的にみれば、多くの種の衰退という言葉で表現される。強者、優れた者が生き残っていくのだとしても、自然選択の論理が働くのだとしても、どれが優れているか、強いのかの判断は、その時点の環境に対する各生命の適応度でしかはかることができない。弱い者たちを一掃してしまったら、生態系のバランスが崩れるから、強者弱者の定義づけも変更せざるをえない。

人間は自由意志で進化を加速できるけれど、もっともっと強い熟考が必要だろう。考える前に行動しろでは、今の科学技術レベルでは取り返しがつかないことになる。よおく考えてから、技術を行使すること。行動の前によくよく吟味すること。こうしたチェック機構の構築が今後の社会、政治、国際活動に求められる。
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